ボランティアワークのおかげで活気づいた近江草津論

     

「私は眠り、人生は喜びだという夢をみた。
私は目覚め、人生とは奉仕だと知った。
私は行動し、目をこらす。奉仕は喜びだった」
(ラビンドラナート・タゴール)

藤岡 惇・仲野優子

 

 「近江草津論」は、BKCの教養科目特殊講義として2003年度に開設されて以来、ことしで6度目の開講となる。本年度は、立命館大学ボランティア・センターからBKCにおけるボランティア教育の第一段階(入門編)として位置づけていただいた。おかげで受講登録者数は618名、5回のレポートを書き上げた者は430名、ボランティアワークに参加した者は400名と、これまでで最大規模の受講生を得ることができた。初回の授業時に、最大規模の教室にあふれるばかりの受講者の大群を見て、びっくり。こんな大規模講義の場で、受講生にボランティアワークを実践してもらえるのか。心底から心配したが、結果的には杞憂であった。その理由もふくめて考察していきたいと思う。
なお本稿は、授業を共同して担当してきた藤岡 惇(経済学部教員)と仲野優子(おうみNPO政策ネットワーク代表理事)が協力して作成したものである(第7節は仲野が担当、それ以外は藤岡が担当した)。

   

1.講義の趣旨

 びわこ・くさつキャンパス(BKC)の建設にあたって、滋賀県と草津市は140億円もの税金を投入してくれた。BKCとは、このように地域住民と立命館学園とが協同して作り上げてきたキャンパスなのである。
 大学で私たちは、専門的学問を修得するのであるが、学んだ成果を死蔵していてはもったいない。「世のため、人のため」に使ってみることで、学ぶ意味も自覚できるし、知識も定着し、智恵に昇華していくものだ。とくにBKCの創立事情に思いを致すと、学んだ成果を近江・草津の住民の直面する問題の解決のために使いこなすことが望まれる。そのために、受講生にはボランティアワーク(以後、VWと略)への参加(フィールドワーク:FWで代替してもよい)を義務付けるとともに、「探検、発見、ホットケン」という認識の深まりプロセスにそって、5回のレポートを提出してもらうことにした。そして認識と探求の成果を、「近江草津の地を持続可能な共生型社会」に作りかえるための「提言(ホットケン)レポート」に結実させることを目標にしている。

   

2.想定した到達目標

 近江・草津・BKCの地を「持続可能な共生型社会」に変えていくにはどうしたらよいか。このテーマを①各種地域団体の企画運営する活動などにボランティアとして参加する、②毎回の講義のなかで学んだことや専門の学識を活かす、という2つの手段でもって追究するというのが、本講義の目標である。もとよりこのような課題は、学士課程教育全体のなかで追求すべきものであるが、本講義は、そのための入門編として、問題意識と基礎体力とを培うことに主眼をおいた。そのうえで、滋賀県民・草津市民の心に響くような最終レポートを完成させ、探究成果を地域住民の皆さんに還元し、この地を「持続可能な共生型社会」に変えるための一助にしていただく。優秀な作品については、本科目の到達点として保存し、次年度の受講生に伝えていくことも目標とした。

   

3. VWを支える授業実践

 「ボランティア」とはどんな人のことか。「言われなくてもする人」というだけでは不十分。「言われてもしない不服従の人」、M.K.ガンジーが実践したように「マイライフ イズ マイメッセージ」といえるような人生を送ろうとする人のことであろう。
 VW(ボランティア・ワーク)というのは、このような人生目的をくみこんだ「探検型学び」だといってよい。400人の受講生を相手に、VWを基礎とした学びのスタイルをどう実現したのかを、以下、説明しよう。

(1)VW受け入れの市民団体を招いた説明会

 担当者の仲野優子と「おうみNPO政策ネットワーク」事務局長の竹谷利子さんとで、受講生のVWを受け入れる各種団体・市民組織を募っていただいた。その結果、19の団体から40の事業企画の提案があり(詳細は後掲の資料-1を参照)、この提案にそって受講生のなかからボランティアを募ることにした。
 このVWの募集一覧表を見るだけでは、受講生にとっては、どのようなVWを選択したらよいか判断に苦しむという面が残る。そこで第3回・第4回と2回分の授業を使って、VWを募集する各種団体の担当者に集まっていただき、VWの説明会を行うことにした。VWの受け入れを表明された19の団体・市民組織のうち、9つの団体から関係者をお招きし、VWの詳細、その意義と魅力について語ってもらったのである。講義終了後の時間帯に学生との個別面談を行う熱心な市民組織の関係者もいた。またVWのやりかたの手引き書も作成して、配布した(資料―2参照)。就職活動の向こうをはって、求人側と求職側とをマッチングさせるイベントをおこなったわけである。
 適切なVW(奉仕活動)先が見出せない受講生には、代替措置として「野外調査活動」(フィールドワーク、FWと略す)に参加するという「逃げ道」も残した。ただしFWを安易な物見遊山に終わらせないために、FWのなかでも学外の社会人と交流することを義務付けたり、FWの報告レポートの分量には、VWレポートの5割増しの1200字以上を要求した。なお資料―1が示すように、FWについても5種類のプログラムを用意し、参加を募った。東海道の巡検や琵琶湖博物館見学などが人気のあるコースとなった。
 教員側が企画した「お任せプログラム」以外でも、受講生が独自に企画するVWやFWも認めることにした。その結果、VWを選択した受講生は全体の8割、FWを選択した受講生が2割という結果となった。全受講生のうち9割以上が、教員側の提供するVW(一部FWも含む)プログラムから選択し、受講生自身が企画・開発したプログラムを実践した者は全体の1割以下にとどまった。

(2)VWの事前学習としての2回のレポートの作成

 この科目では定期試験をおこなわない。そのかわりにレポートを合計5回書き上げてもらうのであるが、第1回の「そもそも」レポートと第2回の「伝承」レポートについては、VWのための事前学習として位置づけた。
 第1回目の「そもそもレポート」というのは、「そもそも人間とは何か。地域とは何であり、持続可能な共生社会とは何か」を哲学的に深めるためのレポートである。
 本年度の「そもそもレポート」は、以下の3つの問いに答えることを課題とした。

① 36億年ほど前に地球上に最初の「イノチ」(生命)が現れたといわれる。「イノチ」とは何だろうか。「私」(脳・自我)が「イノチ」を持っているのか、それとも「イノチ」が「私」を生きているのか。
②200万年ほど前に自然から社会が枝分れし、1万年前に社会から政治が枝分かれし、500年ほど前に再び社会から経済が枝分かれしたといわれる。自然、社会(枝分かれ後の)、政治、経済、文化(芸術・学問・宗教を含む)とは何か。相互にどのような位置関係にあるのだろうか。
③「地域社会」(コミュニティ)とは何か。地域住民にとって本当の「豊かさ」とは何だろうか。字数は1000字以上。10月24日(金)の深夜12時までにWEB-CTのこの科目の「ディスカッション」の部屋の「第1回レポートの部屋に提出のこと」というものだ。

 2回目は「伝承レポート」と呼ばれ、昨年度の受講生の探求の到達点を学ぶためのレポートである。論題は「WEB-CTに掲載されている昨年度のVWレポート・最終レポートを読み、関心を引いたレポートを各1点とりあげて、コメントする。字数は自由。10月31日(金)までにWEB-CTに提出のこと」というものだ。このようにレポート類はWEB-CTに提出してもらったおかげで、受講生全体で情報を共有することが容易となった。

(3)VWと並行して、第3回(問題発見)レポートの作成を義務付けた

 「探検、発見、ホットケン」という認識の深まりプロセスを念頭におくと、VWやFWは「探検」にあたる。VWなどの「探検」作業をおこなうなかで、問題を「発見」してもらい、その成果を第3回(問題発見)レポートにまとめてもらうことにした。
 問題発見レポートの論題はつぎのようなものだった。「『最終(提言)レポート』で、どのような問題をとりあげたいかを明確にするため、まずは問題自体を探検し、その問題の位置と価値とを明確にするためのレポートを個人単位で書いてもらう。近江・草津・BKCの地を『持続可能な共生型社会』に変えていくために、どのような問題をなぜ追究したいのか。その問題の位置づけと解明の意義を明らかにしていただきたい。とりあげる問題についての初歩的な調査の成果もくみこむことが望ましい。最終レポートについてはグループ作成を認めるので、他の受講生の問題発見レポートをWEB-CT上で読み、グループづくりに役立ててほしい」と勧めた。字数は1000字以上。11月25日を締め切りとした。

(4)VWの成果を受講生(次年度の受講生もふくめて)で共有するためにVWの活動レポートを書く

 滋賀県下で活動する各種団体のもとでVWを行うか、滋賀県下において何らかのFW(フィールドワーク=野外調査活動、ただし大学外の社会人との交流を必須とする)を行い、その報告を第4回レポートとしてまとめてもらうことにした。12月25日締め切りで、字数はVWのばあいは800字以上、FWのばあいは1200字以上とし、写真をできるだけ添付するように求めた。VWのばあいレポートの字数を少なくしたのは、受講生の調査活動を単なるFWの域から、社会奉仕の目的を組み込んだ、より主体的なVWの域に高めていくための誘導措置であった。

   

4.VWの成果を「提言=ホットケン・レポート」に結実させる

最終(提言=ホットケン)レポートの論題

 「近江・草津・BKCを『持続可能な共生型社会』にするという目標のもとで任意の問題を設定し、その問題がなぜ生まれたのか、そのしくみを調査・分析するとともに、問題の解決策を提言すること」を第5回目の最終レポートの論題とした。略して「提言=ホットケン・レポート」である。授業やVWでの学び、先行する4本のレポート作成で得た成果、専門分野の学識をいかして、地域住民の心に響く「最終レポート」を完成してもらいたいと、くりかえし受講生に説いた。問題発見レポートで探りあてたテーマを最終レポートのテーマとするのが望ましいが、やむをえないばあいは、テーマを変更してもよいことにし、その場合は変更の理由をレポート冒頭に説明してもらうことにした。
 グループ(ただし5人以内)を結成して、最終レポートを集団で作成してもよいとし、できるだけ集団で作成することを勧めた。集団作成のばあいは一人あたり2000字以上、個人作成のばあいは2500字以上とし、集団作成のほうが負担が軽くなるようにしたのもそのためだ。その結果、レポート総数の1割程度は集団作成となった。受講生の4人に1人程度は、集団作成のほうを選んだように思われる。総数の最終レポートの提出締切日は、試験にかわるレポートの締切日(1月27日)とし、WEB-CTの最終レポートの部屋に提出してもらった。

   

5.レポート作成を支援する毎回の授業

 上述の5種類のレポート作成を支援する目的をかかげて、毎回、もっとも適切な時期を選んで、ユニークな外部講師を招いて、授業を行ってもらった。原則として毎回、藤岡・仲野も出席し、司会を担当し、授業の最後の15分ほどは、質疑にあてるようにした。
 本年度招いた外部講師と講演の論題は次のようなものであった。

1.9/29 科目シラバスの説明と「人間とは何か、地域とは何か」の基礎を考える講義
        藤岡 惇(担当者)
2.10/ 6 BKCの沿革と学生の皆さんに期待するもの
        林田 久充さん(草津市政策推進部政策調整課)
        VWの説明  仲野優子(おうみNPO政策ネットワーク代表理事)
3.10/13  市民団体から見た地域課題とVW・FWへの招待(1)
4.10/20 市民団体から見た地域課題とVW・FWへの招待(2)
        ◇10月24日 そもそもレポート締め切り
5.10/27 草津の直面する課題とBKC・学生への期待    橋川 渉(草津市長)
        ◇10月31日 伝承レポート締め切り
6.11/3     古代から現代までの近江の歴史――近江京の発見によせて
     林 博通(滋賀県立大学教授)
7.11/10  「ローカリゼーションの胎動―環境と文化の時代にふさわしい地域創造を探る」
        ヘレナ・ノーバック・ホッジ(エコロジーと文化・国際協会代表)
8.11/17 琵琶湖の魅力と保全の課題――琵琶湖博物館への招待
        布谷知夫(琵琶湖博物館)
9.11/24 基礎体力を鍛えよう――地域・街づくり入門
          織田直文(京都橘大学)
        ◇11月25日 問題発見レポート締め切り
10.12/1 パナソニック株式会社ホームアプライアンス社における環境とりくみ
        菅 邦弘(環境推進グループ グループマネージャー)
11.12/8 「菜の花エコ革命」の経験     藤井絢子(滋賀県環境生協・理事長)
12. 12/15  長浜の「黒壁」の挑戦と課題      笹原司朗(琵琶倉庫社長)
14.12/22 4時限目 BKCのエコキャンパス化の課題と展望
        吉田 真(生命科学部教授)
15.12/22 6時限目「書を捨てて、農に帰る―脱サラをして近江の地に戻り、パーマカルチュアを実践中の経験を語る」
        森田清和(ユリサファーム、経済学部の卒業生)
        ◇12月25日 VWレポート締め切り
16. 1/19   おうみ商人とは何か、たねやの経験
        川島 民親(たねや・近江文庫専務理事)
        ◇1月27日 最終=ホットケン・レポート締め切り

   

6.学びの成果を教員側はどう評価したか

 

 冒頭にも述べたが、受講登録者は618名に達し、これまでの最高記録となった。5回のレポート提出やVWの大変さを宣伝して、「安易な受講生」にはご退場いただく努力をしたが、それでも最終レポート提出者は、430名ほどでこれまた最高。うち400名ほどが近江・草津地域の現実に深く触れるべく、VWやFWに参加したわけである。そのうち担当者が開拓したVW・FWプログラムに参加した者が340名ほど。残る60名ほどが、受講生自身で探してきたVWやFWプログラムを実践したわけである。
 そして最後の段階が来ると、先述の5種類のレポートを受講生の責任でWEB-CTからプリントアウトし、合冊したうえで、1月27日までに学部事務室に提出してもらった。5本のレポートの配点はつぎのとおり。そもそもレポート20点。伝承レポート10点。 問題発見レポート20点。VW・FW活動レポート20点。最終レポート30点。提出期限の遅れは減点対象になること(2週間遅れで零点になる)。そのほか後半期になると、授業中に3回、ミニ・レポートを書いてもらい、出席シールを貼って提出してもらった。1回につき2点、合計6点を上限に加点したので、総点数は106点となった。
 レポート集を完成させ提出した430名のうち、90点以上を獲得してAプラスという評価を獲得した者は40名ほどであった。200名ほどがA(80点―89点)、160名ほどがB評価かC評価となった。レポート集を提出しなかった者、あるいは5回のレポートのうち1-3回しか書けなかった受講生は、まず例外なく不合格となった。不合格となった受講生は60名ほどにとどまった。

    7.受講生にどう受け止められたか

 始めにVWやFWが、どう受け止められたか、また自分にどう活かすかを示唆しているVWレポートを抜粋して紹介する。(文章も一部抜粋)

「初めて企業の人と接して」

 今回私は滋賀県環境学習支援センターが主催している『びわ湖・まるエコ・DAY2008』といって、滋賀県の企業や学校が環境問題へのそれぞれが向き合ってきたプロジェクトの展示会に参加し、ラリー形式に見立てた企画のお手伝いをしてきました。参加していてすごく印象に残っているのは、地域の企業が真剣に環境問題に取り組んでいたという姿勢でした。滋賀銀行、パナソニック電工と言った大企業がこのプロジェクトに参加をしていることに、始めは違和感を感じていましたが、企業の方と話していると、地域で仕事をする以上は通常の業務だけではなく地域住民、もっと広げて、滋賀県との信頼関係も重要であるということに気づくことができました。社内にそのような取り組みがあるからこそ、滋賀県の環境問題に対しても、何かささいなきっかけでもいい、ちょっとしたことでもいい。滋賀に住んでいる人1人1人がそのような環境に対しての意識を持ってくれれば、よりよい生活環境が築けていけるのではないだろうか。

「自分と人が知らず知らずに結ばれる」

 今回、VWとして参加させていただいた故郷を大切にする会主催の『第7回草津故郷まつり~北海道編~』での活動報告をこのレポートに記す。私は講義内で配られた受け入れ先一覧表を見て、この言葉がまず目に留まった。なぜなら、私自身まさに北海道出身の道産子であるからだ(北海道出身者のほとんどは愛道心が強い)。この言葉を目にして参加しないわけにはいかず、すぐに参加を決心した。
 当日、故郷まつり自体は2日目ということで簡単な設営を手伝い、スタートを迎えた。しかし商店街を歩く人は少なく、会場へ立ち寄る人もいない。ようやく立ち寄ってもらえても、物販を見るだけだったり買っていただいたりするだけで、ハイさようなら・・・。
 17:30頃、辺りも暗くなり始め、同日に開催されていた『くさつ街あかり・華あかり・夢あかり2008』の行灯に灯がともり、商店街に設置されている外灯も消し、行灯の灯りだけに照らされた商店街は、なんとも幻想的であった。会場へ足を運んでくださる人たちも増えてきた頃、一人の男性が会場を訪れた。その男性は北海道在住で、退職後日本のいろいろな所を歩いて旅しているらしく、今回は東京日本橋から京都三条大橋まで東海道の旅の道中で草津に立ち寄ったらしい。そして驚くべきことに、その男性は旧中学時代(現高校時代)まで私の故郷留萌で過ごしたと言うのだ。なんとも予期せぬ出会いがこのような場所であったのだ。
 私は今回初めて自分からボランティアというものに参加したが、いろいろな人たちとふれあい、やはり人間同士はコミュニケーションが大事だと思った。特に草津の場合は地元住民に加わり、我々大学生が多く住んでおり、お互いコミュニケーションをもっと密にとることで、より良い地域社会を形成できるのではないかと感じた。

「大学のお隣さん(町内会)を知る」

 私は今回のボランティアワークで、桜プロジェクト『われら活動隊』に参加しました。この団体は、桜ヶ丘町内及び周辺地域の環境整備・美化活動を目的としていて、町内にある池周辺のゴミや事前に切っていた木材の収集、木の伐採など、お年寄りの方にとっては重労働なことを一緒に体験させていただきました。たくさんの木を切っていたので、なぜこのようなことをしているのかと尋ねたところ、「これらの木が池の水を吸い上げ、池が枯れてきている」とのことでした。以前はかなり大きな池だったのですが、木がたくさん生えてきて、池の縮小という事態に陥っているらしいのです。だから、木を切り、それをその地の肥料として、一箇所に集めているとのことでした。池から少し離れたところに、新しい木を植え、そこを木々で豊かにするそうです。これにより自然を減らすことなく、池は以前よりも拡大していき、さらに池周辺の生物が繁殖していくことでしょう。
 この団体は全員が桜ヶ丘町内に住んでいる方たちで、そのほとんどが定年を過ぎた60歳以上の方でした。しかし、60歳を過ぎているとは思えないぐらい重たい木材や、一輪車を運んでいました。たくさんのお年寄りの方たちが街のために、朝早くから活動をしていたり、団体の方とは別の桜が丘町の住民の方が横を通ったときでも、「おはようございます」と挨拶が交わされており、桜ヶ丘は住民同士のコミュニケーションがとれていて、すばらしい街だと思いました。

「発見を自分の学びに活かす」

 瀬田駅から南草津駅まで東海道を歩きながら歴史文化に触れるFWに参加させて頂きました。瀬田一里塚より月輪寺までの道には以前は松が植えられていたと言うこと。はたから見るとそのような光景は想像に値しませんが、かつてはそこにあったと言う事実、それを知ることによって、普段何気なく目にしている風景ががらりと変化し、地域に対する思いが変化してゆきました。その後の野路の玉川、子守地蔵の話など。恐ろしい民話、悲話、様々な地域に伝わる伝承について学ぶことができました。平家終焉の地が南草津病院の裏にあると言う、意表を突かれるような事実など。他ではなかなか知る機会が無く、とても貴重な体験をさせて頂いたと感じています。
 滋賀県の南部については著しい発展と人口増加の状況にあります。新しく住み始めた人はこの土地の歴史や文化を知らないことにより、旧住民との差異が生じ、郷土に対する捉え方が両者で必然的に異なってきます。新しい街と古い街を比較するとなると…
 古い街については歴史や重要な史跡、住民の間の高い連携性など様々な長所が上げられます。新しい街についても、一方的にその迷惑行為、文化や歴史の無知さを一方的に非難するようなことはできず、草津市の経済に潤いをもたらし。さらなる発展の糧になる存在とも言えるように思えます。
 両者がともに発展するための都市計画としては、まずは交流、歴史や文化を知ること、次に景観の問題や、土地の活用のあり方があります。新たな都市計画と言っても簡単に述べることができませんが、まず多くの人がどのような草津市の未来を望んでいるのかを調査し、歴史・文化的価値などについて古い街、新しい街の人々が向き合い話し合うことが大事ではないかと思います。今の新しい街もいずれは古い街になります。遠い未来まで見据えて考えるのならば、そのような見識を持つことも必要であると感じます。

 

 次に、最終レポートから、受講生がこの授業、とくにVWの義務付けをどう評価しているかをうかがえる部分を摘記してみよう。

「4つのレポート」について

 ・・・・・今まで、私たちはそもそもレポートから始まり、伝承レポート、問題発見レポート、そしてVW活動レポートを書いてきましたが、初めに、授業で5つのレポートについて聞いたとき、4つのレポートで最後のレポートにつながっているのは、問題発見レポートだけではないかなどと考えていました。しかし、実際に書いてみるとすべてのレポートが意味をなしていて、最終レポートにつながっているということがわかりました。そもそもレポートで、社会や経済、地域社会などの、そもそもの原点を振り返ることで、これから学ぶべきことが理解しやすくなり、伝承レポートでは、過去のボランティアなどで得た情報や勉強になったことなどを見て、自分自身も地域の発展のために何かできないかと思うことができ、過去の意思を引き継ぐことができました。問題発見レポートで、これまでの授業やレポートで関心や、興味を持った問題を詳細に表わすことによって、解決策も自らが住民の一人となって考えることができた。私の場合、自らが滋賀県や草津の方々の宝でもある、琵琶湖について考え、環境問題について詳細に書き現すことが、自分たちがやるべきことを明白にしました。ボランティアワークでは、MIOサッカークラブという団体の試合の手伝いに行ったのですが、一緒に働き、地域の人々の声を直接聞くことによって、草津をどうしたいかなど、願望や、不満もあることがわかりました。なにより、観客や、スタッフの話を聞き、MIOサッカークラブの活躍により、地域の発展を望んでいる方が多く、私も琵琶湖をもっと素晴らしいものにして、地域の発展に貢献したいという思いが、また強くなりました。

「近江草津・BKC間のコミュニケーション不足の問題」

・・・先に述べたような立命館大学生と草津市、地域住民とのコミュニケーション不足は複数の原因が絡み合って生まれてきたと考えるが、ここでは3つの原因を分析し、述べていきたい。「立命館大学生・草津市、地域住民間のコミュニケーションの機会のなさ」「立命館大学生のマナーの悪さによる学生に対する嫌悪感」「立命館大学生のコミュニケーション能力の低下」である。
 1つ目の「立命館大学生・草津市、地域住民間のコミュニケーションの機会のなさ」は 私自身、今回の活動前まで感じてきたことである。一般的な立命館大学生のライフスタイルは授業、サークル、バイトが中心となる。また一般的な草津市民のライフスタイルは仕事・家事・学校(学生)が中心となる。ほとんどといって良いほど立命館大学生・草津市、地域住民間の接点がないのである。アルバイトの職種によっては社会人の方と接する機会はあるがそれでもそれは一部の学生のみに限られる。
 2つ目の「立命館大学生のマナーの悪さによる学生に対する嫌悪感」は普段から目に付く。私は普段バイクを利用して学校へ通っているが、多くのバイクが車の脇を抜けたり、生活道路を通り抜けしたり、交通ルールを無視しているように思う。学校のバイク置き場のとめ方の乱雑さを見てもマナーの悪いバイク所有者が多く存在している事が伺える。また自転車の場合も同様で学校前の坂のスピードの出しすぎや信号無視、違反駐車など交通ルールを無視することで、地域住民に多大な迷惑をかけている。また本キャンパスでは非常に多くの学生が下宿をしているが、深夜遅くまで大きな声で騒いだり、ごみを分別せずに出す、あるいは異なる曜日・時間帯に出すなど、自分に意識がなくても、地域住民の方々に迷惑をかけている学生は多いはずだ。たとえ一部の学生が起こしている問題であっても、地域住民の方からすると立命館大学生が起こしている問題には変わることはなく、立命館大学生に対するイメージは悪化する。このような学生のマナーの悪さ・モラルの低下から地域住民の方々は立命館大学生に嫌悪感を抱き、コミュニケーションを避ける行動に出ている事が考えられる。
 3つ目の「立命館大学生のコミュニケーション能力の低下」も個人的に感じる。ここ10年のITの進歩により携帯電話が普及した。したがって以前学生は学生以外の異なる相手とも話す必要性があったが、現在ではいつでも連絡が取れるようになり、仲の良い友達だけ付き合うことが可能になった。また私たちの世代は小さい頃からゲームやネット、テレビに囲まれて生きてきた世代であることから、比較的こもりがちな人も多いのではないかと考えられる。

「解決策の模索」

・・・・・先にあげた原因の多くが私たち立命館大学生にあるように思う。私たちに出来る事は立命館大学生、草津市の一市民としての自覚を持ち、常に相手の事を思いやる心遣いを持つ事である。簡単なことではない単に罰則を厳しくし、学生を締め付けるようなやり方で問題を解決するだけでは、学生が自ら考えて行動する事をやめてしまい、社会で通用する人間になれないだけである。このようにネガティブな解決策よりもポジティブな解決策を図る事で問題を解決する事が望ましいであろう。例えば、大学の講義を単なる座学にするのではなく、このような社会と接点のある授業を増やすなど、学生や地域住民に機会を提供する場を増やす事が良いのではないか。始めは無理やりやらされていると考える学生も出てくるだろう。しかし、今回のボランティア活動もそうであったがやりきった後の達成感は他では味わえないものがあると思う。したがって考える機会、接する機会を作り、その上で学生が自律的な学びができれば、自然と立命館大学生と草津市、地域住民とのコミュニケーション不足の問題は解決し、より良い街づくりが可能になるのではないか。

「VWの制度化・単位化を」

・・・・・立命館の学生と南草津の市民との共生を考えるときにヒントはこの授業「近江草津論」にありました。近江草津論によって、単位習得のためにレポートを書かなくてはなりません。そのためにはFWやVWの様に南草津や他の町の市民の方々と交流をする必要がありました。授業で単位習得に必須であるという条件がついていなかったら、私を含め多くの近江草津論受講の学生もボランティアやフィールドワークに出かける機会などなかったでしょう。人手が足りないが、必要であるボランティア活動に立命館の学生を参加させるには、単位を認定し、その制度を広く流布することにあると考えます。これによって立命館の学生は「単位が欲しい」、南草津の市民は「人手が欲しい」と、利害関係が一致します。
 結論として、私の考える共生への道は、全ての単位の認定の最低条件に南草津の市民との交流を付け加えたならば、南草津の市民と立命館の学生との間で理想的な共生が出来ると私は考えています。例えば、経済経営の授業では、実際の商店にお邪魔し手伝いながら勉強させて頂く、スポーツの授業では、小学校や保育園の運動会に参加し、進行を手伝ったり自らも参加する、理系の授業では、実際の町工場に行き仕事を手伝いながら様々な話を聞かせていただく、その過程で立命館の学生と南草津の市民との間で個人的に利害関係が一致すれば、さきほどの親の話のように、授業の単位に関係がなく交流が始まります(アルバイトとして雇って頂いたり、一緒に遊びにいったりと)。この様に共生の形がありありと浮かぶではありませんか。確かに人と人との関係なので、様々なトラブルがそこにはあるでしょう。しかしながら、その課題を踏まえて考えてみても、立命館の学生と南草津の市民の間での共生のありかたとして、この案はとても魅力的な未来に繋がっていけるのではないでしょうか。

   

8.おわりに

 本科目では、個々の受講生の学びの成果を社会の共有財産に変えるルートが3つある。第1のルートはVWである。受講生をボランティアとして受け入れ、お世話になった団体に、脱稿したVWレポートを献呈するように励ました(一部の優秀レポートは、担当より直接相手先に送付した)。
 第2に、5回のレポートはすべてWEB-CTに提出される。作成したレポートは、500名を超える受講生に公開され、集団的な学習の素材となるというのが第2のルートだ。
 第3に、レポートの成果と到達点を翌年度の後輩たちに伝えていくという回路があることだ。すなわち、VWレポートと最終レポートのなかの優秀作品(各々50人ほど)は、次年度の受講生に課す「先輩からの伝承レポート」の読破を義務付けられる文献として、保存される。つまり今年の受講生の経験が、次年度の後輩たちに伝承され、より「賢明な学びと調査、VW」を展開するうえでの共通遺産となり、知識が生きた智恵に変わっていくしかけが内蔵されていると言ってよい。
 本授業でVWを遂行できたのは、共同担当者の仲野優子講師のご尽力はもちろんのこと、「おうみNPO政策ネットワーク」事務局長の竹谷利子さんのご奮闘に負うところが大きかった。VWを受け入れる市民団体を募集し、説明会に招き、受講生を市民団体と引き合わせ、さまざまな不安や苦情にたいして、「大きなお姉さん」として対応していただいたのは竹谷さんであった。
 いま一つ、VWの行動中に、事前に「教育研究活動計画届」を作成して、学生センターに届けるように強調した。このような措置をとっておくと、万一事故が発生した場合も、「学生教育研究災害傷害保険」がカバーしてくれるので安心だ。この分野の実務作業を担うとともに、授業への出席カードの配布と集計を担当してくれたのは、ES(学生教育サポーター)の古賀 亘君と瀬戸友紀さんであった。2人は昨年度の近江草津論を受講して、優秀なレポートを書き上げた経験者だ。記して感謝したいと思う。
 「私が生まれたとき、私は泣き、皆が笑った。私が死ぬとき、私は微笑み、皆が泣くでしょう」――こんな一生を実践する手がかりを、この授業のなかで受講生がつかむことができたならば幸いである。

(『現代GP――地域活性化ボランティア教育の深化と発展・報告書』
立命館大学ボランティアセンター pp.9-25)